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コラム

蔑ろにされた環境政策

三浦半島は我が国の自然保護活動黎明期から市民活動が活発で、例えば武山の近郊緑地特別保全地区の指定は三浦半島自然保護の会が取りまとめた自然環境調査によってその保全重要性が評価されてのことでした。高度経済成長期での活動は、失う物も非常に多く、活動家がそれこそ人生を捧げながらごくわずかな担保性を勝ち取っていったのでした。

野比のかがみ田は、ゴミ処理場となって埋め立てられる計画があり、当時は教員、学芸員、弁護士、自治会、病院等、所属を問わず自然保護運動が展開されました。そして公害審査会への申し立てにより建設は断念され、塩漬けになっていました。その間も、谷戸の手入れがされなくなったことにより湿地の環境が失われ続け、様々な有志により保護の取り組みが行われていました。

土地を所有する横須賀市は、2014年にかがみ田谷戸を資源循環部から環境政策部へ所管換えして環境保全するよう吉田前市長が判断し、ここで里山的環境保全活用事業を進めることを正式に決定し、地元の学校や町内会へ説明してきました。これまで保全運動に取り組んできた人の中には、この決定を見ることなく亡くなった方もいらっしゃいますが、長年の取り組みが40年越しでようやく実を結んだ瞬間でした。関係する市民団体にも声がかかり、市民と役所が協働で保全活動に取り組むことになりました。それぞれの生物を調査しながら、現地の環境管理を行い、常に自然環境の状況と保全の取り組みを検証しながら、生物多様性を適切に保全する姿勢を確立しました。手入れに関わる人の姿勢としては、石橋を何度も何度も叩いて渡る感じです。特に、半世紀にわたり農家による伝統的な管理がされてこなかった影響は大きく、崩れた地形をどうフォローしていくかが最大の課題となっています。

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ところが、今年の夏から地権者である市役所の姿勢がぶれてきました。谷戸を流れる河川を細く深くするように手を加えられてしまったのです。谷戸の用水路は、流れにより浸食されすぎないよう、木杭などで土留めをして谷底面との高低差が開きすぎないように管理するものです。ところが、コンクリート護岸の都市河川と同じように、川底の杭を取り除いて壁を垂直にしてしまっています。これでは生き物の移動も阻害されますし、川が浸食されれば斜面林の地滑りを誘発することになります。現在、横須賀市にはこの件に関して申し入れをしているところですが、河川を所管する土木部の姿勢は頑なです。かがみ田谷戸を保全エリアとするとしてきた、我々の長年の悲願でもあった市の英断が、一部署の心変わりによって蔑ろにされつつあります。環境政策こそ、何十年、何百年と継続・更新が大切なのですが・・・